〈写真:Tuoitre〉
ベトナム南部では、テト(旧正月)が近づくと、多くの人が家庭で作られていたバインテットの記憶を思い出すという。
年の瀬になると、かつて家族とともに過ごした正月の準備や、鍋を囲んだにぎやかな時間を懐かしく感じる人も少なくない。
かつては、帰省の列車や長距離バスの車窓から、沿線の家々で薪を燃やしながらバインテットやバインチュンを煮る光景が見られた。
夜の闇の中に浮かぶ火の明かりは、正月の訪れを知らせる象徴的な風景であり、多くの人にとってテトの始まりを実感させるものであった。
南部の家庭では、市販品ではなく自宅でバインテットを作る習慣が長く続いてきた。
包みがしっかりしており、保存性も高いため、家族で材料を準備し、手作業で仕上げることが重視されてきたのである。
都市部ではバナナの葉の入手が難しいこともあったが、地方では近隣同士で分け合いながら準備を進める光景が一般的であった。
南部の一部地域では強い風の影響で葉が傷みやすいものの、風を避けられる場所で育ったバナナの葉は質が良く、正月前になると多くの人が求めて集まった。
農家では毎年、テト用のもち米を確保する習慣があり、地元で採れた葉と米の組み合わせが、地域ごとの独特の風味を生み出していた。
バインテット作りには一定の手順がある。葉を選び、適度に乾かした後、もち米を量って中央に緑豆あんと豚肉を入れ、再び米で覆う。
丁寧に葉で巻き、竹ひもで強く締め、形を整える。さらに立てて振り、米をしっかり締める工程も重要とされる。
薪や庭木の枝を燃料にし、夜通し火を絶やさないように家族が交代で鍋を見守るのも、テト前の伝統的な風景であった。
冷たい夜露が降りる中、赤く燃える火を囲みながら過ごす時間は、世代を超えて共有される思い出である。
子どもたちには小さなバインテットが用意され、完成した餅を誇らしげに抱えて歩く姿も、各地で見られた光景であった。
テトの料理は、単なる食べ物ではない。家族や地域のつながり、そして一年の節目を象徴する存在である。
生活様式が変化した現在でも、バインテットの香りや鍋を囲んだ記憶は、多くのベトナム人の中でテトの原風景として残り続けている。










































